相続人以外の寄与を考慮する制度の創設
1 改正内容(改正法1050条)
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護などにより、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続開始後、相続人に対し、寄与に応じた金銭の支払いを請求できる制度が新設されました。
2 現行法制と改正理由
⑴ 相続人やその他の親族が経済的な援助(扶養料の支払)をした場合
被相続人が要扶養状態にある場合には、扶養義務者が被相続人を扶養した場合には、現行法上も、他の扶養義務者に対する立替扶養料の求償が認められています(各扶養義務者の分担割合を定める審判の申立(家事事件手続法第182条第3項))。また、 扶養をした者が相続人である場合には、立替扶養料の求償という手段のほかに、寄与分の申立てをすることも可能です。
また、扶養義務を負わない親族が被相続人を扶養した場合には、その親族は、扶養義務者に対し、事務管理又は不当利得を原因として、立替扶養料の請求をすることができると考えられます。
⑵ 相続人やその他の親族が被相続人に対して療養看護等の事実行為をした場合
療養看護等の事実行為をした者が相続人である場合には、被相続人の死亡後に寄与分の申立てをすることが可能です。しかし、療養看護等の事実行為をした者が相続人でない場合には、現行法の下では、親族に対する求償請求を当然に認めるのは困難とされています。
相続人の配偶者の貢献を配偶者の寄与として認めた審判(東京家裁平成12年3月8日家月52・8・35)もありますが、仮に相続人が被相続人より先に亡くなっていた場合は、配偶者の貢献を相続手続きで考慮することはできません。
⑶ 以上より、相続人以外の親族が、療養看護などの事実行為により貢献した場合に、相続に際してその貢献に報いる方策を創設することとなりました。
3 要件(改正法1050条1項)
被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)のうち、相続人、相続放棄をした者、相続欠格事由のある者(民法891条)を除く者
無償で
療養看護その他の労務の提供をし、
それにより被相続人の財産の維持又は増加し
そのことが特別の寄与と認められること
4 権利行使期間の制限(改正法1050条2項)
特別寄与料の請求は、特別寄与者が、
相続の開始及び相続人を知ったときから6か月(時効)
又は
相続開始の時から1年間(除斥期間)
内に権利を行使しなければなりません。
5 権利行使の方法(1050条1項、2項)
協議
特別寄与者は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)
の請求ができ、当事者間の協議により特別寄与料を定めます。
⑵ 家庭裁判所に処分を求める申し立て
協議が整わないか又は協議をすることができないとき、特別寄与者は、協議に代わる処分を求めることができます(改正家事手続法216条の2)
6 特別寄与料の算定(1050条3項~5項)
⑴ 家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定める。
⑵ 特別寄与料の額は、相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
⑶ 相続人が数人いる場合には、各相続人は、相続分に応じて、特別寄与料を負担する。
7 若干のコメント
現行法上相続人に対して審判で寄与分が認められるケースは多くありません。特に療養看護ほかの労務提供に関して満足できる寄与分が認められるケースはほとんどないと言っても言い過ぎではないのではないでしょうか。認められたとしても、金額は多くないのが実情です。
今回の改正で創設された制度についても要件が厳しく、「特別の寄与」を裁判所がどう判定するかは基準が定かではありません。もちろん協議によって、円満に解決できれば問題はないのですが、新制度がどの程度機能するのか、懐疑的にならざるを得ません。
特別寄与者の範囲についても、議論がありました。今日、家族の形態は多様化しており、戸籍上の親族に限るということ自体に批判があります(衆参法務委員会の付帯決議参照)。
世界に例のない高齢社会の中で、近い将来日本は誰もが介護(被介護)と無関係ではいられない日が来るともいわれていますが、そのための社会保険であるはずの介護保険は、保険料のアップと給付削減の改悪が続いています。また、国が思い切った介護報酬の見直しをしないために介護現場で働く人たちの賃金労働時間などの改善は一向に進みません。
介護の問題は、国家が責任を負い社会全体で支えることが必要であり、家族や親族の一部が負担できる問題ではありません。今回の改正の特別寄与者の制度は、その実効性のみならず根本的な発想自体に疑問なしとはしません。
ただ、そうはいっても相続人間(その他の親族も交えて)親の介護をした人としない人の不公平感がうずまき、相続に関する争いを長期化させている実態があることもまた事実です。親が要介護状態となって初めて介護の現実に直面するのでは遅いといえます。親が元気なときに家族全員で、もしもの時の介護体制について、支出の面も含めて話し合うことが必要でしょう。無理のないように介護保険その他の社会的資源を上手に使うこと、報酬や実費についてもあらかじめきとんと決めておくことが、争いの種を摘むことにもなるはずです。
(続く)