「冒頭陳述が詳細すぎる」!? 【弁護士 高木 一昌】

 とある傷害事件の公判期日において,検察官が冒頭陳述をしようとした際,弁護人が「冒頭陳述が詳細すぎる」と異議を述べたところ,裁判所がこの異議を認め,冒頭陳述が次回に延期されることになったというニュースを見ました(この事件は,被害者が男性器を切断されるというショッキングさから週刊誌などでも事件の背景がセンセーショナルに取り上げられていますが,このコラムではそこには深入りしません)。

 さて,「冒頭陳述が詳細すぎる」と何が問題なのでしょうか。そもそも「冒頭陳述」とは,何のことなのでしょうか。

 刑事事件の公判手続は,冒頭手続→証拠調べ→弁論→判決の四つの段階があります。冒頭手続は,①人定質問,②起訴状朗読,③権利告知,④被告人・弁護人の陳述(起訴事実の認否を特に「罪状認否」と呼びます)の4つの手続きからなります(刑事訴訟法291条)。この冒頭手続が終わった後に,証拠調べに入るのですが(刑事訴訟法292条),証拠調べのはじめに,検察官は,証拠により証明すべき事実を明らかにしなければなりません(刑事訴訟法296条)。これを冒頭陳述と言います。

 法廷傍聴をしていると,検察官が,「検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下のとおりであります。」として,犯行態様のほか,犯行の動機,犯行に至る経緯などを読み上げている場面を目にすることがあると思いますが,それがまさに検察官の冒頭陳述なのです。

 冒頭陳述では,事件の背景事情などにも触れられることが多いのですが,証拠とすることができず,または証拠としてその取り調べを請求する意思のない資料に基づいて,裁判所に事件について偏見または予断を生じさせるおそれのある事項を述べることはできないと規定されています(刑事訴訟法296条但書)。冒頭陳述は,これから証拠調べが始まるという段階(逆に言えば未だ証拠調べが行われていない段階)の手続ですから,事件について偏見又は予断を生じさせることは極力避けなければならないというのがその理由です。

 冒頭で紹介した傷害事件の公判では,検察官の予定していた冒頭陳述において,被害者と被告人の妻がやりとりしたメールの内容の詳細が触れられていたことから,弁護側から「事件との関連性が薄いのに,詳細にすぎる」との異議が出されたようです。弁護側が異議を出した理由としては,「裁判所に事件について偏見または予断を生じさせるおそれ」があるということのほかに,被告人ないし被告人の妻の名誉・プライバシーが不必要に(必要以上に)害される,といった判断があったのかも知れません。

 ニュースによれば,結局,弁護側の異議が認められて,検察官が冒頭陳述の内容を改めることになり,冒頭陳述が次回期日に延期されることになったようです。冒頭陳述の延期自体が珍しいこともあり,「珍事」と紹介しているニュースもありました。

 皆様にとって刑事手続はなじみが薄いかも知れませんが,ニュースをきちんと理解する為にも知っておいて損はないことも多いと思います。そのような豆知識についても,今後も,このコラムで紹介していけたらと考えています。