当事者としてだけでなく、別の立場から事案を見る視点も忘れないようにしたいと考え、家庭裁判所の家事調停委員を拝命して1年半ほどが経ちました。
弁護士の調停委員は、基本的に法的知識を基に事案を進めていくことを期待されているため、遺産分割や遺留分減殺のケースを配点されることが殆どなのですが、ご一緒する調停委員さんたちの知識量にはいつも驚かされています。「先生、これはこうですよね」などと確認されて、密かに冷や汗をかくこともしばしばです。当事者の代理人として調停に関わっている限りでは、なかなかお目にかからないようなケースもあったりして、これまで聞いたこともない手続きや申立てを経験できるのは大変勉強になり、ありがたいことだと思います。
また、弁護士としての習い性で、『このまま行けばこの事件はどうなるのか』『次の手としてはどのようなものがあり得るのか』といった部分が見えすぎてしまうため、特に代理人をつけずにご自身で調停に臨んでいる方には、つい話をし過ぎてしまいます。しかし、調停委員は本来、両当事者間のいずれにも肩入れしてはならない立場。(あー、私を代理人につけてくれれば何とかして差し上げられるのに…!)と身もだえするような場面も多々ありました。実は、これまで弁護士として受ける法律相談では、調停について「基本的に当事者間の話し合いをベースとする手続きですから、『弁護士を付けないとダメ』ということではないですよ」などとアドバイスすることもあったのですが、調停委員をやっていると、やはり弁護士が付いた方がご本人の負担は軽く済むし、事案の進みも相対的に早くなるのは否めないと感じます。
最も辛いのは、当事者の思いを存分に伺う時間が取れないこと。弁護士業務の中であれば、自分でいくらでも時間を割いて、ご本人のお気持ちが落ち着くまで十分にお話を伺うことができます。しかし、調停では1回につき約2時間という制限内で当事者双方に公平に時間を振り分けなければなりませんし、時には調停委員同士や裁判官との評議も入れなければならないので、ご本人の感じたことやその背景事情を伺っている時間は残念ながらあまりありません。「せっかく調停にまで来たのに、こっちの話を全然聞いてくれないじゃないか!」と気分を害される方もいる中で、いかに必要な情報を効率的に(という表現が適切でないのは承知なのですが)聞き出すかということに、毎回苦心しています。
目下の目標は、弁護士調停委員として調停に関与することで、「法的知識以外の部分でも」一般調停委員とは違った効果がある…と言っていただけるようになること。各当事者としての訴えも理解でき、調停に至るまでの経緯も共有できる者として、いかにそれを過不足なく吸い上げて裁判官の前に提示できるか。そして逆に、公正な第三者としての裁判所の考え方を、いかにわかりやすく説得的に当事者にフィードバックできるか。そうしたことを考えながら、当事者双方が納得して調停を終えられるように、日々苦戦しているところです。