親族が亡くなった場合,多くの場合は相続財産をどうするかを考えなければなりません。時には,借金があるというので,相続放棄で終わらせることもありますが,借金だけでなく住んでいる建物があるという場合には,単純に相続放棄すればいいということにはなりません。相続放棄すると借金を引き継がないだけでなく,建物も相続することもできなくなるからです。こんな時は限定承認を利用するか,相続人の一人が相続しほかの相続人は相続放棄するというやり方もあります。どの方法をとるかは,相続財産の内容,借金の金額にもよりますので,一概に言うことは難しいのです。
お父さんが亡くなったが子どもの一人(たとえば弟)が行方不明ということもあります。昔なら一旗揚げようと田舎から東京に出てきたはいいものの,仕事もうまくいかずに音信不通になったという場合でしょうか。行方不明になった弟を抜きに遺産分割協議書を作っても不動産の登記はできませんから,弟抜きに遺産分割するというわけにはいきません。この場合は,不在者財産管理人(行方不明者のために財産を管理する人)を選び,不在者財産管理人を入れて遺産分割協議書をつくることになります。弟の音信不通が7年以上続いていた場合には失踪宣告という制度を利用することもできます。弟を死んだことにしてしまうものです。弟を死んだことにしますので,弟に相続人がいなければ弟抜きに遺産分割できるようになります。死んでもいないのに死んだことにするなんて変に思われるかもしれませんが,探す手がかりもないのに探さなければならないよりも合理的な制度だとは思いませんか。生きていることがわかれば失踪宣告の取消ができますが,その場合でも相続人が弟の生きていることを知らなかった場合には遺産分割は有効です。
相続財産でも遺産分割の対象となるかどうか問題になることもあります。不動産や株は必ず遺産分割協議書が必要です。現金も同様です。ところが,現金と同様に考えてよさそうな銀行預金は遺産分割協議書がなくてもかまいません。法定相続分に応じて当然に分割されるというのです。だから,相続人の一人が銀行預金を遺産分割で分けるのに反対するという人が出てくると,遺産分割の対象にはならないのです。そんなこと言う相続人がいるのかと疑問に思われるかもしれませんが,特別受益(被相続人から生前に財産を分けてもらっていたような場合),寄与分(相続人の働きで遺産が増えていたような場合)が問題となるようなとき,少なくとも銀行預金だけは確実に確保しておきたいとして遺産分割に反対することもあるのです。
生命保険金も,受取人が指定されていますので遺産にはなりません。受取人の固有財産と言われています。受取人指定されていなくても,約款で相続人に支払うとされていることが多いので,相続人が法定相続分にしたがって受け取ります。保険金が遺産分割の対象となるのは,満期後に死亡したような場合の満期保険金くらいでしょうか。
遺産分割の中で使途不明金が問題にされることもあります。被相続人の財産を管理していた相続人が被相続人の預金を使い込んだとされる場合です。この場合は,使い込んだとされる相続人が使い込み金を明らかにして相続人全員がそれを含めて遺産分割の対象にすることで合意すれば遺産分割の対象にすることはできますが,使い込みを否定するようなときは遺産分割の対象にすることはできません。別に民事訴訟を提起して解決するしかないのです。この使い込みが問題とされる遺産分割は少なくないと思いますが,遺産分割の中での解決が難しいことは確かなようです。
遺産分割でもめないように遺言を書いておく方も少なくないと思いますが,遺留分があるのでその点ではもめることもありえます。遺留分のことも考えて遺言書が作成されていればいいのですが,遺産のほとんどが事業用資産で,長男に相続させたいという場合には遺留分に配慮した遺言とすることも難しい場合があります。相続開始前に遺留分を放棄してもらうこともできます。家庭裁判所の許可が必要ですが,裁判所は遺留分の放棄と引き換えの代償があるかどうかも許可するかどうかの判断材料になります。遺言をつくる場合は遺留分の事前放棄も考慮した方がよさそうです。
そのほかにも遺産分割に関して多くの問題があり,事案ごとに千差万別です。相続でもめそうだ,もめているという場合は早めに弁護士に相談されることをお勧めします。