1 「先月は忙しくて毎日残業だったのに給与はいつもの月と変わらなかった,残業代ってもらえないの?」,「会社に残業代を請求したら,月額給与に残業代も含まれているはず,と言われた」
会社に雇用される場合,所定労働時間,月額給与(「基本給」などというところが多いようです。)が決められ,所定労働時間を超えて労働に従事した場合,残業手当が発生します。特に労働基準法で定められた週40時間,日8時間を超えて残業した場合,通常の賃金の2割5分増しの賃金を支払うよう,さらにその時間が月60時間を超えた場合,超えた分については通常の賃金の5割増しの賃金を支払わなければいけません(労働基準法37条)。
2 本来なら,残業代は法令や雇用契約で定められているのですから,会社がその基準に従って支払えばトラブルはないはずです。しかし,実際には採用時の面接での説明や雇用契約にあいまいな部分があり,トラブルとなるケースが後を絶ちません。問題となる事項はさまざまですが,裁判所で多く問題となるものでは,毎月支給される給与のうち,基本給とされる部分がいったいいくらなのかということが明確になっていないケースがあります。
具体例でいうと,求人票に月額給与20万(基本給13万+職務手当7万)などと記載があり,労働者は残業すれば,20万円とは別に残業代が支払われると考えます。また,残業代計算の基礎となる時給も,20万円を月間労働時間で除した金額と考えます。ところが,会社から基本給はあくまで13万,通常月30時間程度の残業が見込まれるので,職務手当7万は30時間相当分の残業代を定額で支給している,30時間を超えた場合,13万を月の労働時間で除した金額を時給として計算した残業手当を支払えば足りるという説明がなされることがあります。
3 いったいどちらの言い分に理があるのでしょうか。
一定の金額を定額残業代として,支給すること自体は違法ではありません。しかし,そのためには,雇用契約や就業規則に定額残業代が具体的に規定されており,かつ,その金額も当該労働者の賃金からあらかじめ何時間分の残業代が支払われるのか,明確にしたうえで,正しく計算されたものである必要があります。
先に挙げた例でいえば,雇用契約書や就業規則に職務手当が30時間相当分の定額残業代として支給されると規定されているか,また,当該労働者に支給される7万という額が30時間相当分の残業代として正しく金額といえるのか,といったことが考慮されます。雇用契約書や就業規則があいまいで数字の計算根拠もあやふやという場合,裁判所では,職務手当は実質基本給の一部として扱われる可能性が高くなります。毎月の給与明細は必ず確認し,不審なところは会社に問い合わせ,それで納得いく説明がない場合,近くの労働基準監督署や弁護士に相談されるといいでしょう。