更新料という言葉は、東京やその近郊では比較的よく知られています。特に、不動産業者を通じてマンション等を借りる場合、当然のように契約書に更新料のことが書かれていて、多くの方はそこに疑問を持たずに払っています。しかし、更新料という規定は法律のどこにもありません。契約の当事者で、払うという約束をしたときだけ、その約束に基づいて払わなければならなくなるだけなのです。
ただ、特に借地契約の場合、約束がなくても更新料を払っているケースが多いです。契約書のどこを見ても更新料を支払うということが書かれていないのに、更新の時期が来ると、地主は「更新をする場合、更新料〇〇万円を払ってほしい」と要求してきます。そして、借地人の方もそういうものなのかと考えそれを払ってしまっているのです。もちろん、円満解決ができるのであれば、一定の心遣いまでを否定するつもりはありません。ただ、借地の更新料は、数万円、数十万円にとどまらず、100万円を超え、1000万円を超える金額を請求される例も少なくありません。ここまでくると、もはや「心遣い」の域を超えていると思います。その「心遣い」に過ぎないはずのものが、さも「法律的な権利」であるかのように考えられているのが現状です。私が借地人の代理人となって地主と交渉を開始して、「契約書に書かれていない更新料の請求はできませんよ」と説明をしても、地主や地主についている不動産業者ですら、「借地人は〇十人いるけど、更新料を払わないのは〇さん(私の依頼者)だけだ」「〇さんも20年前の更新のときは更新料を払っている。今回も払うことになっている」「更新料を払わないなんて非常識だ」ということを平然と言ってきます。しかし、これらの説明はまったくナンセンスです。こういった説明は法的に何らの意味がありません。
また、借地人の方は、「更新料を払わないと、更新をしてもらえず、出ていかなければならないのでは?」と心配されます。実際、地主の方や不動産業者に「更新料を払わないなら、更新しないから家を壊して出ていってくれ」と言われるケースがかなりあります。確かに、一般論として、契約に期間が定められている場合、期間が終わると同時に契約も消滅します。しかし、借地契約・借家契約といった賃貸借契約は、期間が終わっても、そのまま土地や建物を利用し続ける場合、自動的に契約が更新されることとなっています。これを「法定更新」といいます。そして、「法定更新」が成立しないようにするためには、地主の方、家主の方の方で、更新を認めないという「異議」を出さなければならないのですが、その異議を出す際には「正当の事由」が必要とされます。この「正当の事由」というものを短い文章で説明することができないのですが、借家に関していえば、家が傾いていていつ倒壊してもおかしくない、といった極限的な事情があれば「正当の事由あり」となるでしょうが、そうでもない限りよほどの事情がない限り認められません(詳細は割愛しますが、これに対し、いわゆる立退料というものが積まれることで、ようやく明け渡しが認められているというのが実情です)。借地に関していえば、もっと条件が厳しいので、誤解を恐れずに述べれば、借地人の方が住みつづけている、利用しつづけている場合に、正当の事由が認められる例はほとんどないと思います。
そこで、ここで元の問題に戻ると、契約書に更新料を支払う約束があるかどうかで対応が変わりますが、契約書に更新料を支払うとの約束がない場合、更新料を支払う必要がないわけですから、「更新料を支払ってくれないから法定更新を認めない」という地主の主張は、「正当の事由」になりません。全く考慮されないといってもいいと思います。つまり、契約書に更新料を支払う約束がない場合、先ほど説明したとおり、更新料を支払わなくてよくなり、更新の期間が経過しても法定更新をすれば、そのまま住みつづける、利用しつづけることができるわけです。つまり、ここでも借地人の方は、立ち退きを恐れて更新料を払う必要などないのです。
そうなると、次に「更新料を払わずに更新ができるのはわかったけど、将来建物を建てかえる時に地主の承諾が必要になるから、地主の機嫌を損ねない方がいい気がする」という問題に直面します。確かに、こじれてしまうと建物建て替えの承諾をもらうことは困難になってしまうことが多いです。ただ、これに対しても、地主の承諾に代わる裁判を求める手続(借地非訟手続と言われています)があり、地主の方の承諾をとれなくても建物を建てかえることができます。
結局、更新料の支払に関して、いくつかの問題がありますが、一つ一つ解決する方法が用意されているわけです。すべての事例とはいえませんが、法律を知っておけばこんな苦労をしなくてすんだ、こんなお金を払わないでよかった、といった反省をされる前に、正しい知識を知っておいて欲しいと思います。もちろん、何が何でも更新料を払わない方がいいという話ではありません。事情や金額によっては、賃貸人と賃借人の間の関係の潤滑油として、更新料を払って対応する場合もあります。ただ、更新料を払う払わない、賃料の増額請求に応じる応じないといった各場面において、他の選択肢を検討する間もなく、賃貸人の方の要求に応じないと住みつづけられないと考えて、判子を押してしまっている実情は、正しい状態とは思えません。
土地・家屋は、皆さんの生活の基盤を作っています。その大切な基盤を守るためにも、正しい法律知識を持つようにしていただければと思います。
なお、私の方で、2013年8月、「借地・借家の知識とQ&A」(法学書院・定価1600円)を出版し、賃貸人・賃借人関係なく中立の立場から、借地借家問題のいろんな場面における具体的知識・解決方法等を事例ごとに紹介しています。興味を持たれた方は、是非、書店で注文されるか当事務所にてご購入いただきたくお願いします。