中労委でも勝利命令を得る

弁護士 後藤 寛

 昨年の総会報告で,東京都が都に雇用される非常勤職員の定年まで事実上更新していたこれまでの慣行を改悪し,更新は5年までとする条例「改正」を強行してきたこと,組合の東京都への団体交渉の申し入れに対し,東京都は管理運営事項に属する事項であると団体交渉を拒否していることについて,東京都労働委員会が東京都の不当労働行為を認定し,申立人組合の中立を一部認容する救済命令をだしたことを報告した。東京都は不当にも中央労働委員会に再審査中立を行ったが,中労委でも昨年東京都の不当労働行為を明確に認定し,東京都の再審査請求を棄却したので,今後の闘いの展望とともに報告する。


 

1 東京都による要綱の改訂と組合の団交申し入れ


 本件の概要は昨年も紹介させていただいたが,本稿で初めて本件を知る方のために概略を述べる。

 東京都には,消費生活総合センターがあり,そこでは,消費者相談員が毎日都民からの相談に応じている。

高齢者などを言葉巧みに誘い,不当な契約を結ばせようとする悪徳商法は後を絶たず,こうした相談へのニーズは高い。また,法律や各種規制の網をかいくぐり,次々と現れる悪徳商法への対処は,高度な知識と豊富な経験が必要である。

事実,相談員達は20年30年を超えるベテラン職員が多く,弁護士会で相談実態やノウハウを講義するなど,専門性の高い職務をこなしている。

東京都はこうした相談員に契約期間1年の非常勤職員を充てており,職員は毎年更新を繰り返し,経験を積んでも昇給はなく,低い賃金を余儀なくなれている。本来,その職務の重要性や専門性を考えるなら,相談員を長期雇用を前提とする職員として雇用するべきであろう。

ところが,東京都は,平成19年12月,東京都専務的非常勤職員設置要綱を改正し,従来,定年年齢(65歳)の範囲内で可能だった雇用期間の更新を原則4回までとした。従前,1年契約ではあるが,通常,本人が希望すれば,そのまま定年まで事実上更新が認められていたものを5年で事実上雇い止めにするというのは明らかに労働条件の改悪である。


 東京公務公共一般労働組合は,直ちに東京都総務局にこの要綱改正問題につき団体交渉を申し入れた。組合が総務局に交渉を申し入れたのは,東京都の条例や今回の要綱の改正は総務局が取り仕切っており,労働条件などに関わる交渉は予算も絡む以上,総務局との交渉抜きには実質的な交渉は望めないからである。

 ところが,東京都は,平成20年1月,総務局ではなく生活文化局と産業労働局による説明会を開催しただけであった。


 そして,東京都は,本件要綱改正は団体交渉の対象ではない,次年度以降の労働条件にかかわることは交渉事項ではないとして,団体交渉を拒否した。


2 都労委命令


 これに対し,東京都労働委員会は,以下のとおり,東京都に対し団体交渉を命じた。


  「従来,勤務成績等の要件を満たせば定年年齢(65歳)の範囲内で回数にかかわらず可能であった更新が,4回までに変更されたということは,4回更新後に継続勤務を希望する場合,新たに公募に応じなければならなくなる制度変更であり,専務的非常勤にとって,労働条件の重大な変更に当たるのであるから,都は,このことについて団体交渉に応ずべき立場にあるというべきである。」


 また,「労働組合法第7条第2号の団体交渉に応ずべき使用者とは,現に当該労働者を雇用又は任用している者に限られるものではなく,近い将来,当該労働者を雇用あるいは任用する可能性が現実かつ具体的に存する者も含むと解するのが相当である」「仮に次年度更新されない相談員が発生するとしても,組合員全員が更新されないことは考え難く,次年度においても,組合員の中に都の任用する相談員が存在する可能性は極めて高いということができる」。


3 中労委での闘い
 

 東京都は,都労委の命令を不服として,中央労働委員会に再審査の申立をした。


中労委での審問は,3月に入っていた期日が東日本大震災の影響で延期になるなど不測の事態もあったが,東京都の申立人組合への差別的取り扱いや,団体交渉拒否の不当性を改めて明らかにすることができた。
 

 そして,中労委は,平成23年10月5日付けで東京都労働委委員会の命令は正当なものとして,東京都の再審査申立を棄却した。


 中労委命令は,相談員は次年度に任用される可能性が高いとする都労委命令を引用し,東京都は次年度の労働条件についても団体交渉に応じるべき当事者といえるとした。

また,東京都が,要綱改正を管理運営事項として団体交渉事項にはならないとしたことも,本件要項改正は労働条件そのものであるとして団体交渉事項であることを改めて明確に示した。


4 今後の組合の取り組み
 

 東京都は,中労委においてふたたび自己の主張が否定されたが,東京地裁に中労委命令の取消を求めて訴訟を提起してきた。裁判所でも,東京都の団体交渉の不当性を認めさせるよう組合・弁護団とも,引き続き奮闘したい。


 申立人組合が,本件中立をした大きな理由は,申立人組合が長年にわたって東京都総務局に交渉を求めているにもかかわらず,総務局はいっさい交渉に応じないことにあった。

申立人組合が総務局宛に団体交渉の申し入れを文書で送付しても,総務局は回答すらせず,産業労働局や生活文化局といった部署が総務局は出席したいと回答してくるだけである。

回答すらしないということは,法的な義務の有無というより,非礼・非常識な対応である。

申立人祖合としては,本件での闘いで総務局を交渉の場に引き出すことを一つの目標としてきた。都労委や中労委での審問でも,労働条件の決定権限が総務局のみが有し,他の部局は総務局の決定した内容を執行する立場に過ぎないことが明らかになっていた。

 しかも,東京都総務局は,東京都に存在する申立人組合以外の労働組合とは団体交渉に応じていることも明らかになった。 しかし,都労委は東京都総務局が団体交渉に応じないことは不当とはいえない,組合員数などが申立人組合とは異なる状況で,申立人組合と他の組合とに対する対応が異なってもそれ自体不当とはいえないと判断した。

 

事実上,当局の判断で労働組合を差別的に取り扱っても問題ないという,極めて不当な判断である。


 申立人組合は,この点を看過することはできないと考え,昨年末,新たに東京都総務局が賃金等の労働条件について団体交渉に応じる命令を求めて東京都労働委員会に救済命令申立を行った。


 東京地裁と都労委との2つの事件に取り組むことになったが,組合や弁護団とも,東京都総務局との交渉を実現させるよう全力を尽くしたい。