弁護士 大江 京子
1 江戸川区スーパー堤防事業取消訴訟
2011年11月11目、江戸川区北小岩18班地区の住民11名は、江戸川区を被告とし、江戸川区が平成23年(2011年)5月17目に行った
「東京都市計画事業北小岩一丁目東部土地区画整理事業」に関する事業計画の決定に違憲・違法かおるとして、取消しを求める裁判を東京地方裁判所に提訴しました(東京地方裁判所民事第38部)。
第一回弁論は、2012年2月1日午前11時20分東京地方裁判所103号法廷で聞かれます。
2 何が問題なのか一裁判の争点
本件区画整理事業は、国の高規格堤防事業(以下「スーパー堤防事業」という。)
との共同事業を前提にこれと不可分一体のものとして進められてきた計画です。
そのことは被告江戸川区自身が今も認めるところです。
ご承知のとおり、スーパー堤防事業は、その著しい不合理性ゆえに、平成22年(2010年)TL O月28日、内開府行政刷新会議が行った事業仕分けにおいて「廃止」の判定が下され、本年8月に出された見直し検討会においても、 事業執行中の箇所などの一部の例外を除き廃止が相当との報告がなされています。
ところが、被告江戸川区は、スーパー堤防事業との共同事業実施をあきらめず、地元住民の反対を無視して、本件事業計画(現在の体裁は単独事業)の実施を強行する姿勢を変えようとしません。このため対象地区の住民は、計画の取り消しを求めて提訴しました。
本件の事業計画は国の事業であるスーパー堤防事業との共同事業として進められてきました。
しかし、本件地域にスーパー堤防も盛土整備も不要です。それどころか本件地域に、「スーパー堤防」、「盛土」整備をすることは、新たに危険を作り出すことになります。
住民らを一斉に立ち退かせた上で、多額の費用をかけて、わざわざ危険な盛土整備を行い、その上に住民を居住させようとする本件事業計画は、行政が、住民に過酷な負担を課すのみならず、住民の生命、身体、財産に対する危険を発生させる計画であって、憲法にも区画整理法にも違反します。
///スーパー堤防を前提とした事業計画は取り消して白紙に戻すべきです。///
3 事業計画の違法性
住民らが本件訴訟の中で主張する本件事業計画決定の違法性は多岐にわたり ますが、特に強調したい点を簡単にご紹介します。詳しくは訴状をご覧ください。
(1)スーパー堤防事業自体の致命的な欠陥
(ア)治水対策として著しく不合理
スーパー堤防は、連続構造物である以上、全部がつながってはじめて意味を持ちます。一部が完成したとしても全く意味がないことは争いがありません。
ところが、スーパー堤防全部が完成することは、この先400年かかっても不可能です。いつ完成するか目途も計画も立だない構想であることは、国交省自身が認めています。
スーパー堤防は、一部に誤解があるようですが、洪水による越水被害や津波被害自体を防ぐものではなく、あくまで破堤を防ぐという堤防強化策のひとつに過ぎません。
そして、堤防強化策であれば、はるかに安上がりで効果的な方法がいくつもあり、緊急にこれらの強化対策を講じるべき河川や堤防は数多く存在しています。また、最良の治水対策は、越流させ ない方法であり、そのためには力による制御ではなく洪水の河道集中を遊水と威勢により緩和することにあると言われており、例えば利根川上流域の山 間部や田畑への湛水を設計するほうがはるかに建設的で現実的な治水対策です。
スーパー堤防は時代遅れの非科学的な発想なのです。
(イ)莫大な事業費と非効率性
昨年10月現在の行政刷新会議の資料によれば、事業着手から22年を経て、事業の整備率(事業完成のほかに暫定完成、事業中衛含む)はわずかに5.8パーセントにすぎません。 しかもその6割は重点整備区画以外の地区 (つまり人口密集地ではなく、田んぼや山の中の地区)。その上24年間の累計事業費が6943億円で1キロメートルあたり137億円であり、このペースで金区間の事業費を推計すると約11兆円以上の予算が必要とされています。
治水対策として無意味な事業に莫大な税金投入することが許されるわけがありません
さらに指摘すべきは、スーパー堤防は壊れない堤防という謳い文句自体に
嘘や疑問があるということです。今年3月の東日本大震災の際には、利根川津ノ宮地区スーパー堤防においては、盛土端部の擁壁の開き・ひび割れ、建 物の地盤面の沈下が生じました。同じく利根川下流の須賀地区スーパー堤防においても、舗装の亀裂、法面すべり、陥没などの被害が生じました。また、平成16年10月25日に、荒川スーパー堤防において、雨の影響で法面が崩落する事故が発生しています。
スーパー堤防は、その盛土の上に住居・建築物を構築することが想定されているものであり、ひとたび地盤自体の崩落、陥没、円弧すべりがあれば、
住民の人命にもかかわる大規模な被害(人災)発生の危険性があります。
(2)本件地区にスーパー堤防は不要
今年8月に出された国交省の見直し検討会では、例外的に一部事業の続行との報告がなされました。
その当否はともかく、仮にそうだとしても本件地区にスーパー堤防は不要です。
(ア)江戸川には計画高水量をはるかに下回る流量しか流れない
江戸川は利根川の流量を引き受けており、江戸川の計画高水量は1秒あたり7000立方メートルです。江戸川と利根川との分岐点である関宿水門で利根川からの分流量が制御されているうえに、利根川の河床低下で分流量はさらに低下されています。
実際には1秒あたり2300立方メートル程度の流量が起きれば、江戸川上流部の利根川堤防のどこかで溢水が起き、その結果,江戸川にはそれ以上の水が流れないとされています。
本件地区を含む江戸川に計画高水流量を超える超過洪水対策の必要性は存在しません。
(ィ)本件地区は洪水被害の歴史がない
本件地区は、少なくとも昭和2年に関宿水閉門ができてからは、一度も洪水、高潮、破堤の被害を受けたことがない地区で、昭和22年のカスリーン台風のときでさえ洪水被害も破堤もなかった歴史があります。
本件地区の東側に位置する江戸川の堤防は、もともと自然堤誌上の強固な地盤上に造られており、その規模においても強度においても第1経の安全性を持つ堤防です。
また、本件地区は、江戸川のカーブの内側で、洪水流が激突しない滑走斜面側に位置しており、破堤の危険性がもっとも少ない地区であるうえ、広大な河川敷を要していることから、万一洪水が発生してもその被害が住民の生活
圈までに及ぶ危険が少ない地区です。
(ウ)被告江戸川区も国もスーパー堤防の必要性を認めていなかった地区
平成士3年(2001年)、被告と国土交通省関東地方整備局、東京都などで策定されたスーパー堤防整備の指針となる「江戸川区沿川整備基本計画」では、スーパー堤防の整備・検討を進める必要のある地区の中に本件地区は
含まれていませんでした。平成14年(2002年)7月4目、被告が策定した「江戸川区長期計画」において、突如スーパー堤防整備事業の対象地区として本件地区が盛り込まれましたが、何ゆえに本件地区がスーパー堤防の対象地区に加わったのか、しかも、真っ先に施行なのか、被告江戸川区はなんら理由を説明していません。
(3)住民に対する過酷な負担と地域コミュニティーの崩壊
本件事業計画は、一般的な区画整理事業と異なり、すべての住民を本件地 区外に仮移転させ、盛土の整備をした後、再び住民を本件地区内に移住させることを予定しています。
住民らは、自宅を取り壊され位み慣れた場所から移転しなければならず、しかも移転期間は長期に及びます。本件地区外への移転や仮住まいの費用、さらには、本件地区に再び戻って建物を新築する際の住宅ローンの組み直しや二重ローン問題について、なんら保証も補慣もないままに、すべてが自己負担・自己責任とされるおそれもあります。
本件18班地区内には、高齢の住民が多く、経済的な理由により戻ってくることができない住民が多数をしめることは明らかです。
// 地域コミュニティー自体を崩壊させる事業計画といわざるを得ません。 //
4 安心して暮らせるための町づくりをーご支援をお願いします
本件地区に住む住民を犠牲にしてまで、莫大な税金を投入し何ゆえ誰の利益にもならない不要且つ有害なスーパー堤防を作る必要があるのか。本年3月の東日本大震災とそれに引き続く原発事故により、国や地方自治体は一刻早く検討し実施しなければならない放射能汚染対策や防災対策が山済みになっています。
江戸川区の姿勢は厳しく問い直されるべきです。
多くの皆様のご支援をお願い致します。
去る11月11日、雨天の中、私たちは多くの支援者の参加を頂き、無事に「スーパー堤防事業の取り消し」の提訴に至りました。 また、提訴運動の甲斐あって、多くの新聞社がこの「スーパー堤防訴訟」を取り上げ、早速記事にしてくれました。加えて、先日11月18日と11月
23日には、テレビ朝日が、この提訴に至った「スーパー堤防反対運動」を住民の側に立つ格好で丁寧に扱い、放映されました。これらは、まさに世論に訴えるものです。
私たちは、「盛土」を必要とする、この「スーパー堤防と一体化」した区画整理に反対しています。私たちは「盛土」の無い現状の地盤での、住民に負担を掛けない区画整理を希望しています。このような住民の生の声をないがしろにする江戸川区の行政に、私たちは怒りすら感じています。
この訴訟は、これからも世論に訴え、私たち原告団一同、また、原告になれなかった住民も含めて声を上げてゆかねばなりません。私たち住民は、自分たちの生活を守るために頑張って闘ってまいります。
これからが本当の闘いです
皆様には、今後ともご理解とご厚情ある支援を宜しくお願い致します。
江戸川区スーパー堤防事業取消訴訟原告団団長 高橋 新一
住民の声 /
① 私は、今84歳です。来年には、85歳になります。家を建てて、まだローンが残っています。ここを終の家と考えていました。ここで3年もここの地を出て、帰って来て新築を建てろと言われても、90歳になってしまう。
誰もそんな私にお金なんか貸してくれません。二重ローンになってしまう。幾つまで生きられるのか。
水も上がってきたことのないこの安全な街にスーパー堤防など要りません。
② この土地に住んで50年になります。キティー台風の時もカスリーン台風の時も、堤防は切れた事がありません。
むしろ内水災害が酷く、区役所の辺りは一番土地が低いので、水が出たという記憶があります。そちらの対策をするのが先決だと思います。また、ここにお住まいの90代のご夫婦は、悲観なされて「心中でもしようかしら」と電話が掛かってきたほどです。
江戸川区は老人いじめをしているのでしょうか。
③ 江戸川沿には数百年の古い歴史を持つ寺社仏閣が、多く現存しています。このこと自体が、江戸川の現在の堤防がしっかりしているという証拠ではないでしょうか。
また、堅固な土地の上に、7メートルもの土盛りをして、2年半ほどで本当に安全な土地になるのかは疑問です。
3月11日の震災では、江戸川区でも平地で何十年も以前に盛土した土地が崩落して被害にあいました。
斜面になるスーパー堤防が、沈下したり崩落したりする危険はないのでしょうか。
また、メンテナンスを必要とする「堤防の上」に住むのは、嫌です。
~第1回口頭弁論期日のお知らせ~
日時 2012年2月1日(水)
午前11時20分から
場所 東京地方裁判所103号法廷
裁判所へ強い訴えをするために、多くの方のご参加が必要です。よろしくお願います!