絵本作家のかこさとしさんが亡くなった。
かこさんといえば、「だるまちゃん」シリーズなどで有名だが、私もご多分にもれず、小さいころは何回も読んだ思い出がある。特に好きだったのは「だるまちゃんとかみなりちゃん」で、かみなりちゃんの住む雲の上の世界が広がるページをめくる瞬間、いつもワクワクし、実際雲の上はこんな風な世界なのかもしれないと、想像しては楽しんでいた。
大人になってから、かこさんの自叙伝を読んだ。それまではかこさんがどのような人生を送り、絵本作家となっていったのか全く知らなかった私は、子どもたちのために絵本を作るというその徹底した姿勢が如何に形作られていったのかを初めて知ることとなった。
かこさんは、19歳で敗戦をむかえ、大人たちが反省もなく手のひらを返したように「戦争には反対だった」「民主主義の時代がきた」と喜んでいる姿を見て失望し、また自らも自分の意思で軍人を志していたこと、そのために必要な勉強はしたけれど、国語や西洋史、東洋史なんて覚えたってしょうがないと切り捨てたことを、暗愚の至りだと振り返る。そして、同級生たちがみんな戦死する中、「死に残り」の自分に何ができるのか、せめてこれからの子どもたちは自分のようになってほしくはない、自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の力で判断し行動する賢さを持つようになってほしいと、その手伝いをするためなら生きる意味もあるかもしれないと思うようになったという。
かこさんについて、私が強く印象に残るのは、子どもたちのために創作活動を続けたかこさんが、常に子どもたちを尊敬し、子どもたちに感謝をしていることである。「子どもたちは、僕にとって生きる希望となった」と。
先日、かこさんのインタビュー映像を見たら、かこさんは子どもたちのことを「子どもさんたち」と呼んでいた。私は、「子ども」に「さん」をつける大人を他に知らない。
「子どものため」の活動は創作活動に限らず様々なものがあるが、ともすると、自分も含め子どもに対し上からの目線で行動しがちのように思う。子どもは守るべき弱い立場で、自分(大人)よりものを知らない存在であると。ましてや、街中で子どもに対する嫌悪感を隠そうともしない大人たちは、完全に下に見ているのだろう(かつては自分も子どもだったにも関わらず)。
しかし、子どもは守るだけの存在ではないと、かこさんは教えてくれる。子どもは大人以上に色々なことを感じている、大切なことはすべて子どもたちから教わったと、かこさんは言う。かこさんの作品は、子どもを心から尊敬しその上で研究を重ねて作られているからこそ、多くの子どもたちに支持されロングセラー作品を多数生み出しているのだと思う。
昨今、子どもを心から尊敬している大人など、一体どれくらいいるのだろう。今回の訃報に接し、改めてかこさとしさんという絵本作家の大きな存在意義を感じずにはいられない。かこさんが亡くなっても、幸いにもかこさんの作品はこれからも残るので(全部で600点余にも及ぶとのこと。)これからも、少しずつ、今度は子どもと一緒に読み進めたいと思う。