私が担当した事件ではないのですが、法律雑誌で建物明渡訴訟の珍しい裁判例を見つけたので、ご紹介します。
事案はよくある古い木造アパートの明渡訴訟で、第1審の東京地裁で立退料220万円で建物明渡の和解が成立。ところが、和解期日に出席して納得したはずの被告が立退料が少なすぎる(340万円を主張)として、和解無効を主張し続行期日を申し立てた。そこで、東京地裁は判決で和解による訴訟終了を宣言した。これに対し、被告が控訴。
控訴審の東京高裁では、控訴人(1審被告)は原審の和解が無効であることと明渡を求める正当事由がないことを主張し、これに対し、被控訴人(1審原告)は和解が有効であることのほか、明渡の正当事由とそれを補う相当額の立退料を支払うことを主張した。
これに対し、高裁判決は、原審判決を破棄して和解を無効と認めたうえ、立退料を40万円とする建物明渡判決を下した(破棄自判)。
控訴人とすれば、主張通り原審の和解が無効と認められたものの、和解した立退料よりはるかに少ない金額で明渡が命じられ、全く意に反する結果となったといえます。なお、この場合、原審判決で立退料が認定されたのではないから、民訴法304条の不利益変更禁止は適用されないとのこと。
本人が出席した上での訴訟上の和解が無効とされるのは珍しいですが、高裁判決によれば、原審で被告は一貫して立退料340万円を主張して譲らず、和解期日に原審裁判官が和解室の個別面談で説得して和解を成立させたが、成立後すぐに態度を翻しているという経緯から、本人の真意に反する和解であったとされたようです。
立退料については、賃料の1年分を考慮して40万円とされました。
結果的には、控訴人にはとても厳しい高裁判決です。
被控訴人は原審の和解を有効と主張していたのだから、和解を有効とする控訴棄却判決のほうがまだよかったと思いますが、それでは控訴人の不満が残ると高裁の裁判官は考えたのでしょう。しかし、それなら高裁で裁判所の心証を控訴人に示して、強く和解勧告できなかっただろうかとも感じます。
なお、本件は1審被告・控訴人側はほとんど本人訴訟だったようです。代理人に弁護士がついていれば、もっと適切なアドバイスと解決ができたのではないでしょうか。