マイナンバー、本当に必要? 【弁護士 伊藤 真樹子】

1.いよいよ始まるマイナンバー制度

  赤ちゃんからお年寄りまで日本に住む人に一人残らず12桁の番号を割り振って国が管理する「マイナンバー(社会保障・税番号)」制度、平成27年10月から番号通知が始まり、平成28年1月からいよいよ利用が開始されました。

  政府は、マイナンバー制度について、「行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤」と説明していますが、本当にそうでしょうか。

2.私たち国民にとってのメリットは?

  政府の説明では、私たち国民にとってのメリットとして、マイナンバーを利用することによって行政手続きにあたって添付書類が削減・簡略化されたり、情報確認が出来たりするとのことです。

  例えば、年金を申請する場合、これまでは市区町村で住民票や所得証明書をもらったうえで年金事務所で手続きをする必要がありましたが、マイナンバーの「個人番号カード」を年金事務所で示した場合には、添付書類なしで申請できるようになるそうです。

  しかし、年金の申請が必要になることが、一体何回あるでしょうか。普通は人生で一度きりでしょう。他にも、雇用保険の資格取得や被災者生活再建支援金の支給などの制度でも同様に手続きの簡略化が図られていますが、そもそも各制度の利用自体が、あったとしても人生でほんの数回程度です。

  つまり、私たち国民の日常生活にとって、マイナンバーが活用できる場面はほとんど無いのです。

3.制度構築・運用にかかる莫大な費用

  このように、国民にとってメリットの乏しいマイナンバー制度ですが、その制度の導入にあたっては、初期費用として約3000億円、年間経費に約300億円かかり、民間事業者の負担を含めると1兆円とも言われています。

  この費用の回収として、政府は、「税収増額2400億円」と説明しています。しかし、この計算は、マイナンバー制度の導入で「手の空いた」職員1900人が未払い税金の徴収に回り、1人あたり約1.3億円も徴収額が増えるという机上の計算に過ぎません。そもそも、税金の未納は、「払えるけれども払わない」人だけでなく、「払えるお金がないから払えない」人も多くいるのであり、徴収人員を増えただけでそのまま徴収額の増額に繋がるような簡単な問題ではありません。

4.マイナンバー制度の拭えない危険

  現在、個人情報は、世帯や住所は市区町村、年金は日本年金機構など各行政機関ごとに管理されています。これが、マイナンバー制度導入により、各分野の個人情報が結び付けられ、国や自治体が一括して管理・利用できるようになります。国や自治体だけでなく、民間企業も、この番号を扱うようになります。

  これにより、個人情報がいもづる式に引き出され、情報漏えいや不正利用などの危険性が格段に高まります。

  このような危険性について、政府は、「ファイアウオール(安全隔壁)もあり、個人情報にアクセスできる人も限られる」などと説明しますが、そのようなシステムに絶対性はあり得ません。

  日本年金機構の125万件もの個人情報流出事件も記憶に新しいところであり、この事件によって、行政による情報管理は完璧とはほど遠いものであり、ひとたび漏えいすると取り返しのつかないことが明らかになりました。

  マイナンバー制度は、取り扱う個人情報がより幅広い故に、その危険性もより深刻です。

5.マイナンバーがなくても必要な行政サービスは受けられます

  以上のとおり、マイナンバー制度は、私たち国民にとってのメリットは極めて小さいものでありながら、莫大な費用が掛かり、かつ重大な危険性をはらんだ制度です。

  私たちは、このような制度のメリット・デメリットをよく理解したうえで、マイナンバー制度の是非を考えたいところです。マイナンバーがなければ行政サービスが受けられなくなるように考えている方もいるようですが、そのようなことはありません。上記のとおり、マイナンバーの利用によってごく一部の手続きが簡略化できるだけであり、マイナンバーを利用しなくてもこれまで通りの手続きを取ることで行政サービスを受けることは可能です。個人がマイナンバーを利用しないことによる罰則もありません。

  さて皆さん、マイナンバーが私たちの生活に本当に必要かどうか、考えてみませんか。