<新聞報道で思い出す>
2013年7月,毎日新聞に偽装縁組の記事が出ていました。知らない間に養子17人,養親10人の計27人と縁組を繰り返し,12回も名字が変わっていたというものです。
私も同様の事件を扱いました。私の扱った事件は,養親二人との縁組でしたので,その二人を相手に養子縁組無効の裁判を起こし,2013年3月,養子縁組無効の判決を得ることができました。
<戸籍謄本を見てみたら>
裁判を起こすために調べてみたら驚くべき事実がわかりました。
私の依頼者をAさんとすると,Aさんは,200X年8月8日にBさんの養子となる届けが出され,さらに同じ年の12月3日にはCさんの養子となる届けがされていました。いずれもAさんは事情があって養子縁組届を提出できない状態にありました。
それだけでなく,Bさんは,6月30日にDさんを養子にし,Aさんを養子にした後の10月17日,Eさんの養子になっていました。EさんはBさんより一日だけ早く生まれていました。BさんとEさんの誕生日が逆になっていたら,EさんがBさんの養子になっていたのでしょう。Eさんは11月25日,6ヶ月だけ遅れて生まれたFさんを養子にしていました。
Cさんは,Aさんを養子にする前の8月25日,Gさんの養子になっていました。
200X年6月30日から12月3日までの間に,AさんからGさんまで7人の間で養子縁組がされていたのです。
<養子縁組届を取り寄せてみると…>
もう一つの調査として,届け出がされた養子縁組届のコピーを取り寄せることも必要です。それを見てまた驚きました。
AさんとBさんとの養子縁組届の証人欄にはHさんとCさんが署名していました。AさんとCさんの養子縁組届の証人欄にはHさんとⅠさんが署名していました。しかし,二つのHさんの署名は一見して筆跡が異なるうえ,本籍地も異なっています。生年月日,住所が同じですので,同姓同名の別人ということはありえません。Hさんが誰かを養子にして本籍地を変えたとしか思えません(BさんがDさんを養子にした時がそうでした)。
AさんとCさんの養子縁組届に使われたAさんのハンコは,AさんとBさんの養子縁組届でBさんの使ったハンコが使われていました。更に,Cさんは間違えるはずのない生年月日を間違えて記載してありました。
関係者が9人にもなって何が何だか分からなくなりそうです。養子縁組無効の裁判に必要な登記簿類を調べただけでこのようなことがわかりました。もっと調べればもっと多くの養子縁組が出てきそうです。
<BさんとCさんの住所は…>
養子縁組を無効にするには,まず調停を申し立てなければなりません。調停申し立てのためにBさんとCさんの住所を調べてみたところ,住所が見当たらないのです。Bさんは住民票のあった住所から転出届を出しながら転入届を出していないので住所不明です。Cさんは養子縁組届に記載された住所にさえ転入届を出しておらず,これまた住所不明です。
ちなみに,養子縁組当時のAさんの住所も本人の住んだことのない住所で,その後も住民票が勝手に移されていました。
<どうしてこんなことに…>
自分の知らない間に養子縁組がされてしまうという,とんでもないことが起きましたが,どうしてそんなことが起きるのでしょうか。
相談に来られた時,Aさんは身に覚えのない借金があるので携帯電話の契約ができなかったと述べていました。ブラックリストに載っている人でも,名字を変えることで別人と扱われ,新たに借金することができました。養子縁組で名字を変えることができるのです。このようなことを考えると,Aさんのことを知った第三者がAさんに成りすまして金を借り,借入限度額がいっぱいになると養子縁組して名字を変えてまた借りまくるということをしていたと思わざるを得ません。
Aさんの養親BさんもEさんの養子,CさんはGさんの養子となっていましたので,Bさん,Cさんも知らない間に借金を背負わされているかもしれません。そうなってくると,Bさん,Cさんの借金をAさんが相続するという事態も起こり得ます。Eさん,Gさんに借金があればそれを相続することもあり得ます。名字が違うくらいどうでもいいやと思わず,訂正すべきものは訂正するようにした方がよいと思われます。