更新料について

弁護士 西田 穣

1 更新料のはじまり


  更新料とは、賃貸借契約期間が満了したときに、その契約の更新にあたり、 賃借人から賃貸人に対し支払われる金銭のことです。そもそもこの更新料は戦前にはほとんど例がなく、昭和30年代後半以降に、高度経済成長政策により大都市に人口が急激に集中し、地価が高騰しだした時期に発生したと言われています。ですから、更新料なるものが支払われているのも、東京及びその近隣県、その他わずかの都市部だけで、全国的にはむしろ更新料が授受されない地域の方が多いのが実情です。


2 更新料の性質
 

  では、更新料はどういった法律上の根拠があるのでしょうか。実は、この更新料は法律に何の定めもありません。賃貸借契約において、賃借人は賃料を支払うとだけ定められており(民法601条)、この賃借人の義務を不当に加重する特約は、借地借家法等において無効とすると定められている(借地借家法9条、30条、借地法11条、借家法6条)ことからすると、むしろ、更新料というものは法律的な問題を孕んでいるということができます。

 

3 更新料を支払わないための方法

 

  一般に継続的な契約には期間の定めがあり、期間が満了すると契約が終了するのが原則です。ただ、賃貸借契約については、法定更新(民法619条1項、借地借家法5条、26条、借地法6条)という規定があり、期間満了後も賃借人が引き続き目的物の使用を継続し、それに対し賃貸人が正当な理由を述べて異議を述べない限り、従前と同様の条件にて賃貸借契約が更新されたものとみなされます。

 

つまり、雑に言えば、賃貸人から文句が出なければ契約が継続するということです。

 

そして、その文句は、賃貸人が自己使用の必要性等々の「正当な理由」を付して述べなければならない以上、実質的に大半の場合、賃貸借契約はわざわざ更新料の支払わなくても当然に更新されるということになるのです。


 「(地主・家主から言われた)更新粧や地代の増額請求に応じないと、更新契約をしてくれない」、「契約書を交わさないと追い出されてしまう」と心配して、 私のところに相談に来られる方が多数います。

 もちろん、円満に地主・家主と話し合って更新合意書(契約書)を支わせる方が望ましいとは思います(これを合意更新と言います)。しかし、それはあくまで望ましいというだけで、自らの生活の負担増を我慢してまで、法律に根拠のない更新料を支払っていく必要はないのです。


  賃貸人の提示する条件を受け入れるのがつらいといった場合は自信をもって法定更新を主張すればいいのです。


4 現在の更新料をめぐる動き


  ただ、東京やその近隣に居住されている方からすると、これまでの私のアドバイスに違和感を覚える方がいるかもしれません。特に借家契約では、不動産業者が用意する契約書に更新料が最初から記入されているケースが多かったり、借地契約でも周りの人は更新料を払っているという実態がみられたりするからです。

弁護士の中でも更新料を払った方がいいと平然とアドバイスする人もおり、混乱をもたらす原因となっています。
 

 更新料は法律的に認められていると主張する方々の根拠として、昨年(2012年)7月15日最高裁判所第2小法廷判決があります。この判例は、契約書において一義的かつ具体的に更新料が定められている場合、その更新料特約は有効とするものです。

一義的かつ具体的というのは、賃貸借契約書において、更新の際、「新家賃の1ヵ月分の更新料を支払う」とか「金○円を更新料として支払う」と定められている場合を言います。

  確かに、最高裁判例は他の裁判に影響を与えますので、契約書に更新料としてこのよう拡具体的に記載されている場合は更新粧を支払わざるを得なくなったといえます(高額すぎる場合は除きます)。


 ただ、借地契約の場合、20年もの前の契約書に一義的かつ具体的に更新料を定めている例はほとんどありません。

そもそも更新村についての特約自体ない契約書も多く、契約書に記載があってもせいぜい「更新の際は更新粧を支払う」といった内容だけが書かれているに過ぎません。この記載は、一義的かつ具体的な更新料合意ではありませんから、直ちに更新料の支払義務は生じさせません。

 そして、この場合、更新粧はもともと法律上支払わなければならないものではありませんから、法定更新を選択すれば、結局更新料を支払わずに賃貸借契約を更新できるのです。


5 最後に


  更新料問題は、法律を正しく理解されないまま日常的に語られてしまっている問題の一つだと思います。住居という生活の基盤に関する問題ですから、自 分1人で判断するのは怖いかもしれません。

 今後、もし更新料の問題で悩まれている方がいましたら、更新料を払う前、契約書に判子を押す前に必ず相談に来るようにして下さい。

「更新料を払う必要はない」という運動を広めて下さい!