はじめに
誰しも、いずれは親に死に別れなければなりません。そして子供にとって親との別れは、相続問題に直面させられることを意味します。
しかし、相続問題は、実は子どもにとっての問題だけではないのです。親の問題でもあるのです。親がきちんとした遺言書を作っておくと、子どもたちが親の相続を巡って無用な争いをしなくて済むのです。
1 遺言書の作成
そこで遺言書のことからお話を致しましょう。
遺言書は誰しも必ず作らなければならないものではありません。
しかし、①子どもの内の一人が親の仕事を手伝っている場合、②子どものいない夫婦の場合、③既に子供のいる人が高齢者になってから再婚している場合等は、相続人間の紛争を未然に防ぐ意味でも遺言書を作っておくことをお勧めします。
①の場合、もし法定相続分に従って遺産分割した場合、親が軌道に乗せた仕事が続けられなくなる可能性があります。
②の場合、残された配偶者と被相続人の兄弟との間で、③の場合、残された配偶者と被相続人の子どもたちとの間で、深刻な争いが起きてくる可能性があります。
ですから①~③のようなケースでは遺言書を作っておくことをお勧めします。
次に、遺言書を作成するとして、どのような方式の遺言をするかの問題があります。
遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の三種類があります。自筆証書遺言は、全文を遺言者が書くので作成自体には何の費用もかからず、その内容を秘密にしておくことができるところに最大の特徴があります。しかし、内容に不備がないかとか、税金がどうなるのか等を考慮して、遺言者の意向に添うような遺言書を作ろうとして弁護士に作成を依頼する場合は、手数料を支払う必要があります。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成して貰うもので、偽造・変造のおそれがないところに最大の特徴があります。この場合、公証人の手数料が掛かります。弁護士にアドバイスを受ける場合、その費用も掛かりますが、内容の法的チエックが可能で、紛失・偽造・変造の恐れがない等のメリットがありますので、遺言をするのであれば考慮に値すると思われます。
秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密のままにしておける自筆証書遺言の特徴と偽造・変造を防げる公正証書遺言の特徴を併せ持っています。しかし、公正証書と違って、遺言書が公証人の手元に残されるわけではないので、紛失したり破り捨てられる恐れは残ってしまいます。
最後に遺言書の作成を弁護士に依頼する場合の手数料についてお話をしておきたいと思います。
定型的な遺言書の場合は、10万円~20万円、非定型的な遺言書の場合は、経済的利益が300万円以下の場合は20万円、300万円を超えて3,000万円以下の場合は経済的利益の1%+17万円、3,000万円を超えて3億円以下の場合0.3%+38万円、3億円を超える場合0.1%+98万円となっております。公正証書にする場合は、その上に3万円を加算することになっております。
2 相続開始
不幸にして親と死に別れてしまった場合、①相続人の確認、②相続財産の把握、③遺言書の検索、をしなければなりません。
①は、普通はあまり問題になりませんが、被相続人が再婚で、初婚のとき生まれた子どもと没交渉できたような場合、初婚で生まれた子どもを外したまま遺産分割をしかねません。しかし、このような遺産分割協議書は有効なものにはなりませんので、ご注意ください。②③は、当然のことでしょう。
3 遺産分割
⑴ 遺産分割の基準
遺言書が作成されていないときは、相続人間で遺産分割協議をすることになります。民法第906条は、遺産分割の基準を『遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、これを行う』と定めています。
これだけでは漠然とし過ぎて分かりにくいと思いますが、要するに実質的に公平を図ることが求められているのです。具体的に言えば、被相続人の経営していた飲食店を長男が引き継ぐ場合、お店の敷地・店舗を皆で分け合ったとしたらお店は続けられなくなってしまいます。このような場合、お店は長男が引き継ぎ、その他の兄弟は代償金を受け取るといった形をとることも必要になります。
⑵ 特別受益
相続人の中には、被相続人から遺贈を受けたり、婚姻・養子縁組のため若しくは生計の資本を受けた者がいる場合があります。そのような特別受益を受けた相続人は、遺産分割に際して特別受益を受けた額が相続財産にみなされることになります。例えば、相続人が兄弟二人、遺産が2,000万円で、兄が400万円の特別受益を得ていた場合、みなし相続財産は2,400万円、兄はその2分の1である1,200万円の内、400万円は既に取得しているので、具体的相続分は800万円ということになります。
⑶ 寄与分
相続人の中には、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいる場合もあります。このような相続人の中で、専従性(自分の仕事と同様に行われること)、継続性(寄与行為が相当の期間継続すること)、無償性(寄与行為に対して対価に相当する給付がなされていないこと)が認められる者には寄与分が認められます。
⑷ 相続人間で遺産分割協議が整わない場合
相続人間で遺産分割協議が整わない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停申立てをすることができます。
4 遺言書のある場合
⑴ 遺言書がある場合と遺産分割
遺言書の記載には、「遺産分割方法の指定」をしている場合、「相続分の指定」をしている場合、その両方の性質を持っている場合等があります。
「相続分の指定」をしている場合は、遺言書があっても遺産分割の必要が出てきます。
⑵ 遺留分
兄弟姉妹以外の相続人は、遺言書によって遺留分を侵害された場合、遺留分減殺請求をすることができます。遺留分の算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有した財産に、原則として相続開始の1年前までに贈与した財産を加えた額から債務の全額を控除したものになります。
この財産をもとに、各相続人の法定相続分を計算し、それを2分の1すると遺留分額を算出することができます。そして、遺留分が侵害されている場合は、遺留分減殺請求をすることができます。
遺留分減殺請求の方法は、必ずしも裁判上の手続きを取る必要はありません。しかし、話し合いがまとまらなければ、裁判上の手続きをとらざるを得ません。
5 弁護士の手数料
遺産分割について弁護士に依頼をする場合の手数料についてお話いたします。手数料は着手金と報酬金に分かれております。
着手金は、経済的利益が300万円以下の場合その8%、経済的利益が300万円を超え3,000万円以下の場合その5%+9万円、経済的利益が3,000万円を超え3億円以下の場合その3%+69万円、経済的利益が3億円を超える場合2%+369万円となっています。
報酬金は、経済的利益が300万円以下の場合16%、経済的利益が300万円を超え3,000万円以下の場合10%+18万円、経済的利益が3,000万円を超え3億円以下の場合6%+138万円、経済的利益が3億円を超える場合4%+738万円となっております。
ただ、ここで経済的利益の計算方法について付言させて頂きます。原則は対象となる相続分の時価相当額となりますが、分割の対象となる財産の範囲又は相続分について争いのない部分については、相続分の時価の3分の1の額が時価相当額となります。
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